インドエピソード・丹田の発現
TAMAKARA YOGA〜魂と体をつなぐyoga〜のクラスを開いています、山崎大です。
瞑想やyogaをインドにおいて学んできました。
どのようなことをしていたのか、何が起こったのか。
インドでのエピソードも時々こちらに綴っていきたいと思っています。
ご興味のおありの方、お付き合いいただけたら幸いです。
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インドの砂漠地方ラジャスターンに小さなオアシスの街がある。
プシュカルと呼ばれるその街は、湖を中心に木々が茂り、人々は太古より水を求め集ったのだろう。
1000に近い寺院が立ち並び、今では祈りの聖地としてこぢんまりとしてはいるが、各地から人を引き寄せてやまない街の一つに数えられる。
その地で、ヴィッパサナーの瞑想の10日間クラスに参加したこともあってか、僕のプシュカル滞在は2ヶ月を超えていた。
毎日小高い山に登ることが日課になり、頂上にある寺院の屋上で乾いた風に吹かれ、瞑想をして過ごしていた。
毎日山の頂上にある寺院に通い詰めていたため、寺院の宮司さんと呼べばいいのだろうか、その寺院を管理する方と良く言葉を交わすようになった。
時々駆り出されては、寺院の修復を手伝ったり、仏像の着物を調達しに街へ出かけたり共に過ごした。
彼はよく、瞑想の仕方や、体の動かし方をことあるごとに教えてくれた。
物腰や、体の柔らかさ、高い壁を何の氣無しにするすると登ってゆく姿から、ただ者ではないと密かに感じ、教えは守るようにしていた。
ある日、約束をした。
時間を指定され、心を決めてからくるようにと告げられた。
インド人を相手にしていて、時間を指定し約束をすることなどそうはない。
大体はすっぽかされるのがオチだ。
ただ相手は神社の宮司さんだ。
指定された時間に行くと、やはりそこには彼の姿があった。
400ccほどのバイクにまたがった彼は、僕を背中に乗せた。
準備はいいか?と聞かれ、応えるとおもむろに走り出した。
もちろん、ヘルメットなどはしていない。
インドの交通事情は日本とは大きく異なる。
信号はない。
車線はあるようでない。
ミラーもなければ、制限速度も恐らくない。ときどきブレーキすらない。
交通量は多く、運転は皆荒い。
そんな中、僕を乗せたバイクは猛スピードで走っていった。
速度が80kmを超えたあたりで、これはただのお出かけではないなとすぐに感じた。
どこに行くのか?と訪ねたが、彼は無言だった。
目の前の大型バスを追い抜いてゆく。
対向してくるトラックとの隙間を縫うように時速は更に加速していく。
「やめろ。何をするつもりだ!!」
僕の中の誰かがそう叫んでいた。
カーブにさしかかる。
スピードは落ちない。
大きく角度を付け、僕を振り落とすかのように曲がってゆく。
目の前の車を次々と追い越し、対向車との風圧で体が吹き飛びそうだ。
「やめさせろ!スピードを落とさせろ!」
僕の中の誰かがそう叫んでいる。
その誰かが、僕の生存本能であることに僕は氣がついた。
ああ、またお前か。
恐がっているのか。
彼を、疑うのか。
氣持ちは分かるが、先を任せて進んでみようじゃないか。
そう受け答えをし、覚悟を決めた。
事故が起こるなら、それまでのこと。
それも、悪くはない。
運転する彼も同じ運命なのだ。
彼が、そうするとでも?
彼を心の底から信じてみよう。
そして、我が人生を信じてみよう。
きっと、ここでは終わらない。
ここで終わるくらいなら、わたしはずっと前に終わっていたはず。
そんな確信と伴に、腹を据えた。
氣がつくと、時速は100km近く出ていながら、運転する彼は、両手を離していた。
あっ、と思った。
その瞬間、熱い塊が腹の底から噴き上がった。
一瞬一瞬が、スローモーションに映った。
一瞬一瞬が、今の連続だった。
今は、一コマのようで、その一コマが連続していた。
今は、変化そのものだった。
生か死か。
その連続が、今だった。
一瞬先に死があった。
一瞬先に生があった。
その連続で、生が続いていることを見せつけられた。
腹の底からは、燃えるような熱が噴き上がり、熱は、今生きていることを伝えていた。
生存本能は、今が嫌いなのだ。
生きていたいが故に、変化そのものである今を避ける。
今に真に向き合った時、生存本能の声は消え、永遠の今が広がっていた。
両手をハンドルに戻した彼は、涙を拭っていた。
僕が身動き一つせず、声を上げることもしなかったことを、彼を信頼しようとしたことを、その先にある大いなる存在を信頼しようとしたことを、讃えてくれているのが分かった。
この日初めて、丹田というものが分かった。
今、ここ。
恐れも、期待もない。
先はお任せ。
大信頼。
覚悟を据えたときに、強く発火する。
永遠の今に丹田は発現する。
武道や武士道に丹田が通じている理由。
呼吸法だけではたどり着けない理由が垣間見えた日だった。
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お読みいただき、ありがとうございます。
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